
大会長挨拶

日本呼吸理学療法学会と日本循環器理学療法学会は特に科学的であり先進的な、そして我が国の理学療法士にとってエッセンシャルな学会であり、かつ目指す頂きでもあります。理学療法学会は高度に専門分科しそれぞれが法人格を有するに至りましたが、この2つの学術大会長を同時に拝命し、法人化後に初めて合同学会の形で開催できることをこの上なく光栄に存じます。
呼吸と循環は言うまでもなく運動や神経活動のエネルギー源であり、理学療法においてはその機能に対する的確な判断が必要な評価項目であるにとどまらず、我々理学療法士が運動を主要な武器として障がいを克服し予防するための必須条件であり、理学療法学の基盤です。
この3年あまり、新型コロナウイルス感染症は波状的に世界中に猛威をふるい蔓延し、医療・保健・福祉と社会生活の様相を一変させてきました。病態の重症度や法制上の取り扱いは変化してもなお理学療法臨床や社会への影響は非常に大きく残存しています。また災害は常に想定を超えてまた再来することを考えると、我々は苦悩の中に意義を見出す日本の文化というにとどまらず、国民から信頼される理学療法士と理学療法学の矜持として、常に次の困難に備える必要があります。研究発表と情報交流の場である学術集会も延期や中止やオンライン開催を余儀なくされ、本合同学会も当初は2022年の開催を予定しておりましたが延期し、ただし合同学会の枠組みを維持したまま、本年の開催に至りました。あらためて両学会キャビネットのご高配に感謝いたします。
このような背景の中で準備を進めてまいりました本合同学会では、これまでになし得なかった企画を積極的に盛り込んでおります。
今年は日本集中治療医学会の設立50周年にあたり、そして集中治療理学療法士制度が発足して一層集中治療における理学療法士が担う責任を明確化された年でもあります。この機会に日本集中治療医学会理事長の西田修先生をお迎えして、記念事業の一環として日本呼吸理学療法学会、日本循環器理学療法学会との3学会合同シンポジウム“Future of the Cardiovascular and Pulmonary Physiotherapy in Intensive Care:集中治療における呼吸循環器理学療法の未来”を開催していただけることに深い感銘を受けております。
また、学会初日の連携シンポジウム“Breakthrough the Border”では、多くの関連医学会で活躍する第一線の理学療法士にご登壇いただき、学会活動の中で理学療法士ならではと期待されていること、障壁を打ち破るべく理学療法士に求められていること、今後のさらなる展望についてお示しいただきます。
“Cutting Edge”と題したセッションは、呼吸循環器理学療法における臨床研究の最前線を新進気鋭のトップランナーに存分にプレゼンテーションをしていただき、参加者に自身のヒーローとなる理学療法士の姿を目に焼き付けていただくために、そして“Remark on a good Basis”は、病態や作用機序を証明する基礎研究なくして理学療法は成り立たないことから、臨床研究に貢献する基礎研究への理解を深めていただき、最先端の内容を披露いただいて相互にインスパイアされる時間のすばらしさを味わっていただくために、こだわりを持って企画しました。
“beyond COVID-19”はまさにこの学会の準備の過程で我々が経験したコロナ禍における理学療法を取り上げたセッションです。当初の全く疾患特性についての情報がない状況から、レッドチーム内で感染防御を行いつつ積極的に重症例に対する理学療法を提供したり、あるいはアドヒアランスが保ちにくくなった慢性経過例を運動から遠ざけないような取り組みを行ったりと、理学療法の活躍は多岐にわたりました。そして現在では長期症状や罹患後の健康状態をいかに支援するかが大きなターゲットになっています。最前線からの報告をもとに、呼吸循環器理学療法の展望について論じる機会になれば幸いです。
“Manners Make good Physiotherapists”は映画のセリフから着想したネーミングですが、18歳人口の減少や学力や体力の低下が論じられ、またオンライン講義中心の学修を余儀なくされるなど理学療法士像の確立も明確とは言えない状況の中で、次の世代に理学療法士の目標を描かせ、信頼されることを誇れる理学療法を継承し、品位や品格を備えた理学療法士あるいは研究者や教育者として、さらに呼吸循環器理学療法を発展させていくための卒前ならびに卒後教育への提言をテーマと致しました。
閉会式を前にしたセッション“Legends’ View”では、我が国の呼吸循環器理学療法が多くの先達たちのたゆまない挑戦によって発展し、超高齢化社会における知見の発信は世界をリードする科学として広く知られるに至っていることの意義を参加者と共有したく、座長との鼎談の形でレジェンドおふたりの視点から俯瞰していただこうと思っております。
これらの教育企画にさらに各学会の委員会やタスクフォースからの企画等を追加し、ディベートを含めた多彩な内容となりました。これらのセッション内容も、当日の対面とライブのみでなく、後日オンデマンドで配信する予定でおります。
もちろん、学会の本来の目的である研究発表としても貴重な合同学会の機会を活かしたいと思います。なにより日本呼吸理学療法学会、日本循環器理学療法学会という我が国が誇る理学療法学会の両雄がそれぞれ選出する優秀演題によって、合同大会最優秀演題賞を競う機会を設け、広い学際領域にまたがり独自に進化した理学療法研究の頂点同士が相まみえ、活発な議論ができることを楽しみにしています。同様に、今回は特に症例報告にも焦点を当てていることも特徴です。医療者のなかでも特に理学療法士は臨床経験を重ねて患者さんや利用者さんに育てていただく部分がとても多い職種であると自認しています。研究発表の場では統計学的な価値が重視されがちなこともあり、個々の症例にスポットを当てることが十分ではなかったかもしれませんが、臨床の理学療法士にとってはある意味ではメガデータを凌駕するほどの価値がある症例報告を通じて、ぜひとも勇敢な理学療法士によるドッグファイトを称える機会にしたいと思います。ほかにも卒業後数年の若手の研究者を対象としたtrainee awardは、研究歴のスタートラインとしてお互いに広く刺激を与え合い、次の理学療法研究を担う世代への支援と強いメッセージとなることを期待しています。
また、今回はそれぞれの学会が過去最多となる演題数のご応募をいただき、カテゴリー分類や発表形式にも準備委員会がさまざまな工夫を凝らした構成といたしました。オンライン学会も良いのですが、“ご家族やお子様と一緒にご参加いただける学会”も、我々が東京お台場の日本科学未来館を会場としてその特色や魅力を活かし目指す学会スタイルの一つです。
このような本合同学会はSNSをはじめとするネット媒体上でも大変盛んに話題にしていただき、相乗効果を得て演題数や事前登録者数も想定を遥かに上回るペースでご登録いただいて、さまざまな記録を更新し続けています。
呼吸と循環の両輪が強固に組み合わさった本合同理学療法学会が、発表者や参加者がお互いに共通の学問基盤に立脚して新たな知見に触れ、討議し、共感し、インスピレーションとリスペクトを与え合い、これからの理学療法の臨床と研究と教育をさらに高めるためのランドマークとなることを願っております。
日本呼吸・循環器合同理学療法学会学術大会2023
(第9回日本呼吸理学療法学会・第7回日本循環器理学療法学会)
大会長 木村 雅彦(杏林大学保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授)